20も初版とまったく違う話になってきましたが、指輪の再登場と痛みのエピソードで一気に進みました。明日も早めに‘修正’して、8月中の完結を目指します。
(7月29日分から続く)
私は下ろした両手を握りしめて誰もいない特別病室で叫んだ。コンピューター危機の後に病院と研究所のセキュリティー対策が強化されたといっても、二人には何の障害にもならないはずだ。マスコミは効果を上げていると言ってたけど、新しい生命はそんな弱い存在ではないのだ。
「……何とか言ってよ……」
周囲をにらんでいた私の語尾が震えた。
でも、井上さんやお祖父ちゃん、お祖母ちゃん、それに、看護師たちが少しでも過ごしやすいようにと気を配ってくれている特別病室から返事はなかった。
飾ってある家族の写真も答えてくれないし、タイミング良くメールが来ることもなかった。
「……お願い、答えて。私はこれからどうすれば良いの?」
鼻先であしらわれるだけでも良いから私はパックに会いたかった。チョコに肩に乗ってもらいたかった。
私は膝を抱えてうずくまって、せめて気が済むまで電子空間でパックとチョコを捜せたらと思った。
すると、右手の人差し指に指輪をしている感触に気付いた。
「え?」
驚いて確かめてみても、私は指輪なんてしていなかった。
「どういうこと?」
私は何度も左手で触ったり、見直したりしたけど、指輪をしている感触はなくならなかった。それどころか、目をつむるとどんな指輪か目に浮かぶ気さえした。
「斉藤さん、ちょっと来て!」
『お嬢様、どうかなさいましたか?』
「右手の人差し指に指輪をしてる感触がするの!」
私はパソコン画面に再び映った斉藤さんに右手を突き出して見せた。
「指輪なんてしてないのに!」
『……誤作動でございましょうか?』
「まさか! 誤作動だったら指輪だなんてはっきり分かる訳ないよ」
『では……、パック様が何かなさっていたのでしょうか?』
「斉藤さんもそう思う!?」
興奮した私は座り直そうとして身体の痛みにうめいた。無理のしすぎで、リハビリでもここまで急に身体を動かしたことはなかった。
「イタタタタタ……」
『お嬢様、看護師を呼びましょうか?』
「……止めて、他の人に聞かれたくない……」
『……かしこまりました』
私は少しずつ身体を起こして、起こしてあるベッドに寄りかかった。曲げていた両足もゆっくり伸ばして、二、三度深呼吸した。
幸い、痛みはすぐに消えたけど、右人差し指の指輪をしている感触はなくならなかった。
「……ふう、痛かった。
斉藤さん、ナースセンターに気付かれてないよね?」
『今のところ動きはないようですが……』
『望ちゃん、どうかしたの!?』
斉藤さんの返答の途中でナースセンターからの声が割って入った。
『何か取ろうとした?』
「いえ、何でもありません。ちょっと動こうとしたら身体が痛んだだけです」
『それなら良いけど、まだ一人で動こうとしないでね。手術は全部終わっても、身体はまだ動くことに慣れてないんだから』
(後に続く)
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