修正を優先するため、早めに着手したのに一区切り付いたのはいつもと同じでした。そのため、他のことがあまりできませんでしたが、時間が掛かったのは20の調子をつかむためだったと思って、明日も早めに修正に着手したいです。
(7月25日分から続く)
「え?」
「違和感とか、感じる?」
「どうして?」
「感じてないなら良いけど、望ちゃんの右腕と右足は義手と義足なの」
「え!?」
私は思わず身じろぎした。そんなことあるはずがなかった。
「冗談、止めてよ。義手と義足ができるのはまだ先でしょ」
「先だったんだけど、今はその先なの」
「そんな……。
じゃあ、半年もにらみ合ってるの?」
「え?」
「事件のことよ。攻撃が止んだんなら、にらみ合ってるんでしょ?」
「それが……、犯人たちは行方不明なの。一時は世界中のインターネットが使えないくらいだったんだけど、この間国連が終結宣言を出したわ」
「……そんな……。
私はまた独りなの……」
私は打ちのめされた。半年も意識を失っていたことだけでもひどすぎるのに、二度も家族を失うなんて信じられるはずがなかった。
「後、斉藤さんは無事だし、望ちゃんが部屋で使っていたものもそっくり残ってるからね。昨日は人工眼の手術が済んで、明日から少しずつリハビリも始まるから」
「…………」
「……望ちゃん、私も事件がこんなことになってとても残念に思ってるわ。研究所や病院の人もみんなそう思ってるし、世界にだって望ちゃんと同じ気持ちの人はきっとたくさんいるはずよ」
井上さんは言いながらそっと私の両頬に触れた。温かくて、柔らかい、紛れもなく現実の手。
「……美穂姉……」
もうパックやチョコに触れられないのだと思ったら、私は泣き出していた。部屋にいたときには再現できなかった涙が私の顔をぬらした。
「……私、私……」
もう二度と電子空間に戻れないのだという現実に私は涙が止まらなかった。まるで子供のように泣いて、泣き疲れた私はそのまま眠ってしまった。
20、
泣き疲れて眠った次の日からリハビリが始まった。
お祖父ちゃんやお祖母ちゃんとも話せるようになって、二人とも泣いて喜んでくれた。
また、私が統合型感覚再現技術を使った初めてのサイボーグになったことも公表された。コンピューター危機の爪痕がまだ生々しかったから非難する声の方が多かったけど、研究所や病院の人たちが強く反論してかばってくれた。
受け入れてくれる家族に、支えてくれるたくさんの人たち。
でも、私の心は空っぽになったみたいにむなしくて、毎日パックやチョコのことばかり考えていた。
『……お嬢様、お祖母様からの手紙に返事を書かれてはいかがですか?』
「うるさいわね。斉藤さんはパックとチョコを捜してれば良いの」
『ですが、井上様を始め、多くの方が心配なさっております』
「うるさい」
私は寄りかかっていたベッドからパソコン画面の斉藤さんに怒った。このところ斉藤さんは二言目にはその話ばかりで、私はうんざりしていた。
「斉藤さんは捜索が終わるまで黙ってて」
『……かしこまりました』
部屋にいたときと変わらない斉藤さんの姿がパソコン画面から消えて、特別病室はまた静かになった。
「……私だってそれくらい分かってるわよ」
斉藤さんに捜させているのも気休めだということはよく分かっていた。なにしろ、二人は世界中のサイバー組織に追われているのだ。
私は絶望に似た気分のまま両腕で目と額を覆おうとして、左手の痛みと右腕の違和感に舌打ちした。
「……なんで一緒に行かなかったんだろ」
私は目の前まで上げた両腕を見詰めた。
最新の人工皮膚で覆われた義手の右腕と何度かの手術で傷一つない左手。
どちらもパッと見ただけでは事故に遭ったことなど分からないくらいだけど、目に見えない痕ははっきり残っていた。部屋で何度もテストしたといっても義手は元の右腕ではなかったし、最新の人工皮膚を使ってもサイボーグへの偏見は変わらなかった。
「く……」
痛みの残る左手で右腕をつかもうとすると、まだリハビリが不十分でうまくつかめなかった。すぐに井上さんやお祖父ちゃん、お祖母ちゃんの悲しむ顔が思い浮かんで、つかんでいた左手からも力が抜けた。
「これじゃ縛り付けられてるのと一緒じゃない」
部屋にいたときには現実に戻りたかったのに、今となってはそれが本当に本心だったのか分からなかった。
「二人とも生きてるんでしょ? 聞こえてるんなら何とか言ってよ」
(後に続く)
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