『電子のイブ（第二版）』13の一部

「進みやすい」と書いたばかりなのに、話が重くなって修正のペースが落ちました。でも、初版では触れられなかった設定を書けたので満足しています。

（4月9日分から続く）
　パックに真顔で言い返されて、私は言葉に詰まった。確かに電子空間ではリソースがなければ存在すらできなかったし、パックの言うとおりだとも思った。
「……でも、だからって他の人のコンピューターを荒らさせることないじゃない。パックが専用のリソースを確保するとか、研究所に協力してもらうとかできたはずでしょ」
「僕を高く買ってくれてうれしいけど、僕一人の力なんてたかがしれてるさ。それに、研究所に話したりしたら新型ウイルスを兵器にされるのがオチだよ」
「そんなの分からないじゃない」
「いや、分かるよ。侵入型統合直接インターフェイスシステム――パックの研究所での統合型感覚再現技術の呼び名――は元々サイバー戦で効率的に戦うために開発されていたシステムだからね。
　だから、新型ウイルスを知られたりしたら、リソースをどこに確保しようと絶対圧力を掛けられて接収される。なにしろ、ＪＤＡＩ――侵入型統合直接インターフェイスシステムの略称――を使った兵士と同じ能力を持った‘兵士’になるかもしれないんだから」
「そんな！」
「望のところだって、世論の反対を気にしてるだけじゃなくて、そういう軍事利用も気にして極秘にしてるんじゃないかな？　サイボーグにやたらとこだわるのもＪＤＡＩみたいな利用を気にしてるからだと思うよ」
　パックは淡々と言って私を見詰めた。私を脅かすとか、怒らせるとかの感じは全然なくて、まっすぐに私を見詰める様子がかえって真実だと実感させた。
「……そんな……」
「望にはショックだろうけど、既に新型ウイルスは大勢の人間に狙われてるんだ。悪さをしないで気付かれないように進化するにもまだ時間が掛かるだろうし、それまでは僕たちが守ってやらないといけないんだ」
（後に続く）