第2回「神の出てきた悪夢 その2」

「どういうこと？」
「その前にこの手を放してくれないかな？　密着してるのはうれしいけど、ちょっとこの体勢じゃ話しづらい」
「！」
　あたしはソイツの視線に気付いて突き飛ばした。
「変な目で見ないでよ!!」
「そんなこと言ったって、優花が首を絞めてきたんだよ」
　ソイツはすました顔で言ったものの、あたしは素早くショールを羽織った。今まで気が付かなかったけど、あたしはちょっとくたびれたジャージ姿――今晩実際に着ているジャージと同じ――だった。
　それで、あたしがソイツから距離を取ってもう一度尋ねると、ソイツは露骨に傷付いた表情になった。
「一体『死神にそそのかされた男を止めろ』なんてどういうこと？」
「うう……、そこまで避けることないじゃないか」
「いいから早く言って。あたしの知り合いに自殺したがってるのがいるとでも言うの？」
「違うよ。優花の知り合いかどうかは分からないけど、自殺したがってるんじゃなくて人を殺したがってるんだ。それも、数千人、数万人ってね」
「え？」
「だから、その男、いや、もしかしたら女かもしれないけど、がこれ以上人を殺す前に止めてほしいんだ」
「……冗談でしょう？」
　あたしはまじまじとソイツの顔を見返した。軽薄そのものという感じは変わらなかったものの、一応ウソをついてるとか、からかってるという訳ではなさそうだった。
「なんであたしがそんな危ないヤツを止めなきゃならないのよ。そういうことだったら警察に言いなさいよ。あたしを巻き込まないで」
「じゃあ、優花が言ってくれる？　『どこの誰だか分からないし、はっきりした証拠もないけど、数千人、数万人て殺そうとしてる連続殺人鬼を捕まえてほしい』って」